大判例

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福岡地方裁判所 昭和28年(行)12号 判決

原告 高木定義

被告 飯塚市議会

一、主  文

本件訴を却下する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

二、事  実

原告は「被告飯塚市議会が昭和二十八年三月十七日第二回定例議会に於てなした予算総額二百五十万円を以て自動車一台を購入する旨の決議の無効なることを確認する。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、其の請求の原因として、原告は昭和五年以来飯塚市に居住する住民なるところ、被告は昭和二十八年三月十七日の第二回定例議会に於て市議会事務局が優先的に使用するとの名目で、予算二百五十万円を以て自動一台を購入する旨の決議をした。然しながら右決議は次のような理由により無効といわねばならない。即ち、飯塚市宮の下納租八幡宮の堂宇内には家なく、職なき浮浪者が多数居住して居り、市の道路水道消防設備は不完全極まり、市内の各学校の教室は著しく不足して居るのに、市は之に対して財政が窮迫して居ることを理由に何等の対策も講ぜず、又現に飯塚市には市長専用の自動車が一台、其他バスが三台あるのに拘らず、更に僅か市会議員三十人中の数名の個人的利益のために、多額の費用を投じて、本件自動車を購入する必要は毫も認められないから、右決議は市会議員が其他位を利用して私利を図る目的を以て為したる権利の濫用であると謂ふべく、而も右決議内容は飯塚市の現状を無視した公の秩序に反するものであるから無効である。若し右決議に基き市長が右自動車を購入するときは、購入費として金二百五十万円の支出を要するに止まらず、其の自動車の車庫建設費、附属品、ガソリン購入費、並に運転手、助手の給料等の維持費等を合して昭和二十八年度丈でも少くとも金四百万円以上の経費を要するから、之を飯塚市の世帯主約一万人に割当てるときは原告も其世帯主の一員として約四百円の謂われなき地方税の増額を負担せしめられる結果となる。よつて原告は右決議の無効確認の裁判を求めるにつき法律上正当の利益を有するので、本訴請求に及んだと陳述した(立証省略)。

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、原告主張の事実中、原告が飯塚市住民であること昭和二十八年三月十七日飯塚市議会の第二回定例議会に於て、原告主張の内容の決議のあつたことは認めるが、その余は否認する。飯塚市の財政は原告が主張する程逼迫して居ないし、飯塚市の社会保障制度、消防施設等は財政の許す限り適当に対策を講じて居る。飯塚市所有の自動車は本件の分を合して二台、他に市民号バスが一台あるだけであるから、市政運用の必要上本件自動車の購入の議案を議会に提出し慎重審議の結果満場一致で右採択の決議を見たものであつて、原告主張の如き何等違法不当の廉はない。尚本件自動車は飯塚市に於て昭和二十八年四月十三日既に購入済であると附陳した(立証省略)。

三、理  由

原告が飯塚市住民であること、被告が昭和二十八年三月十七日の第二回定例議会に於て予算額金二百五十万円を以て自動車一台を購入する旨の決議をしたことは当事者間に争がない。

原告は右予算の決議の無効の確認の裁判を求めて居るので、斯る訴の提起が出来るかどうかを判断する。

抑々市は地方自治を本旨とする普通地方公共団体とよぶ法人であり、その執行機関として市住民の公選による市長をもち、その議事機関として市住民公選の議員により組織さるゝ市議会を設けており、市長は毎会計年度開始前にその会計年度の歳入歳出予算を調製して議会に提出し、その議決を経なければならない。市の予算は一会計年度間に於ける市の歳出歳入の予測表であり、歳出に関する市会の議決は、市が当該会計年度に於て一定の目的のために一定の金額を支出することを適当なりとして、議会が市に対して承認を与える行為であり、市長はこれに基いて支出を命令し右予算の執行をなすものである(地方自治法第二百三十二条によれば、議会において予算を議決したときは、市長はその写を出納長又は収入役に交付し同人は市長の命令があつたときはその予算の議決どおりの支出をなすことができる旨を規定している)。又歳入に関する議決は、唯歳入の種目と金額を予測し以て歳出に充つべき財源としての歳入見積高の予測が適当であることを市に対して承認する行為であるに止まり、市又は市長にそれだけ税徴収入の権限を与へたり、又はそれだけの税徴収につき承認を与えたりする筋合のものでもない。地方税が専ら法律の定めるところに従つて賦課徴収すべく、予算に従つて之を行うものでないことは法律上明かなところである。以上説明したところにより窺知しうるように予算の議決自体は直接住民に対するものではなく、直接住民の権利を害し、住民に義務を生ぜしむるものでもなく、ただ市の議事機関たる議会が市の執行機関である市長に対して財政上の支出をなさせるにつき予め承認を与えるところの市と称する法人の為す内部的意思決定に過ぎないものといわねばならないから、それ自体行政訴訟の対象とならないことは勿論である。なお市議会の議決それ自体行政訴訟の対象とならないことは既に最高裁判所の判例とするところ(最高裁判所判例集第七巻第六号六六四頁参照)である。よつて本訴は不適法として却下すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 鹿島重夫 大江健次郎 武居二郎)

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